出世欲、退職願

現場でのいざこざがあった後でも、変わらず、普段の業務の日々が続いていきました。

 

その後、私は、再び事務の業務に従事することになりました。

 

現場の作業をコントロールするお仕事です。

 

その部門では、原材料の入荷手配、製造への生産指示や計画策定、製品の出荷手配といった業務を行っておりました。

 

工場現場における、モノの入りと出を担っており、工場の流れをスムーズにするための、まさに、司令塔の役割でした。

 

自分を中心に、多くの人と多くのモノが動きます。

 

原材料の入荷が間に合っておらず、製造部門からの催促プレッシャー。

 

在庫が足りないことによる、営業部門からの緊急補充依頼。

 

不良在庫品の使用のための、技術部門からの計画確認。

 

製造からの生産品の仕上がり遅れによる、物流部門や運送業者からのクレーム。

 

いろんな方向からの連絡と、いろんな方向への指示により、業務の開始前から、2時頃まではひっきりなしに、電話が鳴っていました。

 

現場で作業していたとき以上の、異常なほどのカルチャーショックを受けました。

 

伝票の処理をしながら、電話の受話器を耳と肩の間に挟んでの応対の嵐。

 

製造部門・技術部門と営業部門との間に挟まれての調整の数々。

 

緊急度の高い案件を大至急動かすための、構内放送。

 

一馬力の仕事を、遥かに超えた先を、また遥かに超えているような仕事の状況でした。

 

これ一人でする仕事じゃないでしょ?、と思いつつも、労働時間中は必死でひた走るしか、仕事を終わらせる方法がないため、ただ、ひた走っていました。

 

悩んで考えている時間が無駄、考えない、一分一秒たりとも無駄にすることなく、処理と応対を、一瞬たりとも気を抜くことなく行い、走り続けました。

 

そのような日々を過ごしていると、あまり考えなくとも、大半の人が納得するような回答を、即決即断で行うことができるようになっていきました。

 

それでも、日々、状況が目まぐるしく変化する中で、その変化の数と、周りの人達からの要求が、どんどん高度になっていくと、自分の中でも、限界を迎えつつありました。

 

そのような時に、その当時の部門長とマネージャーのほうから呼び出しがありました。

 

同じ部門の、私の後輩(仮称:Mくん)の、昇進試験に関する内容でした。

 

後輩のMくんは、近々昇進試験を受ける予定である、と。

 

そのうち、Zくんの耳にも入ってくるだろうから、Zくんが腐らないように、今、この場でこの話を伝えている、他言しないように、と。

 

Mくんは入社以来、同じところで働いていたから、エレベーター方式で昇進試験を受けることができてラッキーだ、と。

 

しかも、Mくんは工場全体での活動に、リーダー的な位置づけで関わっていることもあり、評価しやすかった、と。

 

Zくんは入社以来、様々な経験をしてきたけど、会社では、いろいろなところを回るほど、評価がされにくくなるシステムである、と。

 

ましては、Zくんは、普段の仕事は頑張っているけど、工場全体の活動には参加していなかったから、評価がしにくかった、と。

 

は?ラッキー?評価がされにくくなるシステム?いや、工場全体の活動への参加って、管理職が人選してますよね?

 

思うことは多々ありながらも、私は喉の奥が詰まり、思わず泣いてしまいました。

 

(今、思うと、そんな話をされても、今更の話でしかなく、不可抗力でしかなく、それで、私が納得するとでも思ったのでしょうか。)

 

泣いた私を諭すかのように、部門長は、来年は昇進できるように頑張るからとか、それで昇進できても特別だからとか、持ち上げたいのか、突き落としたいのか、結局は自分に対する言い訳ばかり言い、私のほうはどうでも良いように考えている印象を持ちました。

 

結局は、その場で、私を丸め込むための飴と鞭を駆使していたのだと思いますが、私には全くと言っていいほど響いてきませんでした。

 

そのとき以降、マネージャーからは、工場全体の活動に関わるサポートをして頂き、私の昇進に一役買うようなアクションをして頂きましたが、もう時すでに遅しでした。

 

なぜなら、そのMくんの昇進試験の話があったとき、悔しさ、怒りという気持ちと同時に、自分自身の出世欲、名誉欲、承認欲に、虚しさを覚えたからです。

 

(いかに、自分がそのような欲に塗れているのかと、、奴隷化・従属化サラリーマン、ここに極まれりです。)

 

また、幸か不幸か、かつての戦友のSさんも、私と似たような状況で、彼は転職活動を始めていました。

 

Sさんに心の内を打ち明け、かつて、万人力を発揮した二人がそこで、また再び力を合わせ、転職への道を歩み始めることになりました。

 

それ以降は、自分に与えられた必要最低限の仕事をこなしては、転職活動のための、キャリアシートの作成や修正、転職エージェントとの面談やスケジュールなど、転職へ向けてのコマを着実に進めていきました。

 

転職活動の面接の移動のために、深夜0時を回り家につくこともあり、普段の業務もある中で、疲労困憊の日々ではありましたが、Sさんからの鼓舞、自分の未来のため、ひたすら走り続けました。

 

転職活動中の、私の仕事振りを気にした影響か、部門長から、また時間を作るからとか、話をしようとか、アプローチはありましたが、その時はもう既に私の心は、そこにはありませんでした。

 

そして、ついに、、転職先が決まりました。

 

私の転職先が決まった時には、既にSさんも、私より少し早いタイミングで転職先が決まっていました。

 

後は、退職願を出すだけ、その段階に差し掛かっていました。